劇団パンタカ第9回公演:平成2年4月8日(日):神戸文化大ホール
【釈尊降誕会祝典劇】
『私本西遊記』、一幕四場
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頭領 | どうでしょうか。旅は道連れ、世は情けと申します。デリーまでの道中、我々を護って下さいませんでしょうか。我々は頭数ばかりで腕っ節の方はからきし駄目なんです。その点、そちら様は腕に覚えのおありになるお二方に、徳を積まれた尊いお坊さま、なにかありましたとき、これほど心強いことはございません。そのかわりと申しちゃなんでございますが、食べ物の方はたっぷりと持参しております。あ、そうそう、これはうっかりしておりました。お酒などいかがですか。ペシャワル産の逸品でございますぞ |
・ | ーーー玄奘、目配せするが八戒と悟浄、素知らぬ風で、口に一杯ほうばりながら |
八戒 | いや、いや、これは、これは、痛み入る(グイッとあおって)熱風、熱砂で喉はカラカラ。あ〜、腸にしみわたる。しみわたる |
悟浄 | あ〜、甘露、甘露 |
・ | ーーー玄奘にも勧めるが |
玄奘 | (咳払い)コホン、小僧なりといえども、我は五戒を堅く守っておりますれば、酒は一向に断っておりまする |
副頭領 | は〜、そんなものですかねえ。こんなおいしいものをねえ。坊さんというのは窮屈なものでござんすねえ |
悟浄 | なんだ〜、我等がお師匠様に対して、なんて言いぐさだ。気に入らねえなあ(舌がもつれる) |
八戒 | いいから、いいから、気にしない、気にしない。なんだ、お前、もう酔っぱらっちまったのか。いいから、いいから、お師匠は特別、俺たちも特別、まあ、注ぎなよ。いい酒じゃねえか。ホロッとくるねえ |
・ | ーーータグたち、猪八戒の飲みっぷりに呆れながらも、じわじわと機会を狙っている。玄奘は疲れから居眠りを始める。馬の小龍もかたわらにへたっている。背後に回った三人が黄色いハンカチーフを取り出し、くるくると巻いて構える。あわや頭領が合図をというとき、八戒が大きなくしゃみをする。タグたち驚いて機を逃がす。再び、というとき、今度は悟浄が |
悟浄 | うい〜っ、ヒック、こ〜つと、煙草を一服、やりてえなあ |
・ | ーーータグたち、思わずずっこける。頭領、あわててとりつくろう |
頭領 | まあまあ、おひとつ |
八戒 | どうしたい、おまえさんたち。すっかり酔っぱらっちまってるね。な〜んだい、そんなことでどうする。ねっ、酒は飲んでも飲まれちゃあいけないよ。なあ、沙悟浄! |
悟浄 | そうだ、そうだ、お酒を飲むのも修行のうちってね。うい〜っ |
・ | ーーー黒子になった子供、数名登場。黒い棒で猪八戒と沙悟浄の頭をなぐる。効果音(木魚のポカリという音)ポカリ!ポカリ! |
八戒 | やいやい、なにをしやがる |
・ | ーーー横にいたタグの胸ぐらをつかむ |
悟浄 | いて〜え、皿のてっぺんにまともにズキーンと来たぜ、く〜、おじさんは怒ったぞ! |
・ | ーーータグたち思わぬなりゆきにキョロキョロして |
手下 | いえ、カーリーの神かけて、私は何もしておりませんです。いや、しようかなあっと思ったら・・・・・(モグモグ) |
手下たち | ええ私も・・・(別の手下も)はい、私も・・・・ |
八戒 | それにしても妙だなあ。いきなり、ポカリと来たぞ |
頭領 | ええ〜い、えい、えい、芝居もこれまでだ。やれ、やれ、こいつら飲みつけねえ毒入り特級酒を飲んだばっかりに、頭がいかれたと見える。こいつは大笑いだぜ |
猪八戒・沙悟浄 | なんだと〜、ーーー悟浄、あわてて玄奘を揺すって起こす。「お師匠!お師匠!」ふらつきながらも玄奘をかばう。タグの手下たち。ギラリと刃物を出す |
頭領 | ジタバタするねえ。ホコリがたたあな。いやさ、中華のお人。ここいら天竺あたりでタグとき聞きゃあ、泣く子も黙る秘密結社だ。おれたちにみこまれたが運の尽き。これまでの命と諦めてすんなりと首を伸ばせば良し。逆らったって眼にも止まらぬ早業で黄色いスカーフがおめえさんたちの猪首に巻き付くんだ。なに、チョンの間に楽にしてやるよ。おれたちは無益に苦しめるのが嫌いでね。なるべく早く楽にしてやりてえのさ |
猪八戒・沙悟浄 | よくもよくも、たぶらかしやがったな、ん・・・ーーー得物を構えるがフラフラしている |
玄奘 | 二人ともしっかりしておくれ。これ八戒!これ沙悟浄! |
頭領 | よ〜し、よ〜し、しびれ薬の効能に間違いはない。野郎ども!さあ、煙草を・・・・ーーーと、言いかけたとき、再び子供達の黒子が現れて、タグたちの足をポカリ、ポカリと叩く。タグたち跳び上がって大慌て。 |
手下達 | いてっ、いてて・・・あいたっ・・・・つ〜 |
・ | ーーー猪八戒・沙悟浄、キョトンとしていたが、ニヤリッと笑って |
悟浄 | はは〜ん、また悟空の悪さだな |
八戒 | よ〜、兄貴、悟空の兄貴よ〜、いいところに来てくれた。こちとら、体が痺れていうことをきかねえ |
頭領 | なんだ、なんだ、悟空とかがどうした・・・・・みんな足元に気をつけろーーー今度は、子供達、長い棒で頭をポカリ、ポカリ、タグたち頭をかかえて唸る。悟空、せりで上がる(拍手) |
悟空 | わ〜はっはっはっーーーすっと大きく息を吸い込むと子供たち、悟空の下に集まる |
悟空 | やいっ、八戒に悟浄、おれがいなくなって大口を叩いたはいいが、そのざまはなんだ |
玄奘 | お〜、やはり悟空であったか。良いところへ来てくれた。どうか、この災難から逃れさせておくれ |
悟空 | さ〜てねえ、破門された身ですからねえ。ほとほと愛想が尽きた。二度と顔も見たくないとおっしゃったのはどなたでしたかねえ |
玄奘 | お前ね〜、今、そんなことを言ってる場合じゃないでしょ〜 |
八戒 | 兄貴〜、話は後だ!ーーーまぐわを振り回しながら、苦戦中 |
悟浄 | あ〜、眼が回る。もう、いけねえ |
悟空 | よ〜し、その泣きっ面、忘れるなよ。この斉天大聖様を差し置いて一番弟子だと。よしゃぁがれ。おれ様でなけりゃあ、お師匠のお供はつとまらねえんだ。ね〜、そうでしょう。悟空がやらねば誰がやるんですか |
玄奘・猪八戒・沙悟浄 | そうです!そうです!あんたが一番!あんたが大将! |
頭領 | こらっ、こらっ、内輪でなにをごちゃごちゃ言ってやがる。ものども、かかれ、足元と頭に気をつけろ |
悟空 | ええ〜い、それっ! |
・ | ーーー悟空、毛をむしり取り、息を吹きかける。子供達、タグの横腹を叩いて回る。悟空、大立ち回り、次々と脳天をうち砕く。その隙に、副頭領と手下二人、玄奘に猿ぐつわをかませ、担ぎ上げて上手へ逃げる |
悟浄 | お〜い、悟空、大変だ!お師匠様がさらわれた |
八戒 | 悟空兄貴〜! |
悟空 | なにっ、しまったーーー呪文を唱え、金匝棒(きんそうぼう)を巨大にすると、タグたちに投げつけ、下敷きにする。さらに呪文を唱えると、金斗雲が現れる。金斗雲に乗って上手へ追いかける |
暗転 | ・ |