劇団パンタカ第5回公演:昭和61年4月8日(火):神戸文化大ホール
【釈尊降誕会祝典劇】
『長生王子ものがたり』
 ーー恨みは愛によって鎮(しず)まるーー
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(1)

子供達登場 ーーー合掌、礼。
ナモー・タッサ・バガバトー・アラハトー・サンマー・サンブッダッサー(三唱)ーーー子供達退場
(NA)下手登場 これから皆様にごらんにいれまするは「長生王子ものがたり」と申します。これはお釈迦様がバンサ国のコーサンビー城におられました頃、お弟子たちの間である事件が起こりまして、それがもとで互いに不和となり、是非を論じて、ついに僧団の分裂の危機に見舞われたことがございました。そこで、このことを大変心配なさったお釈迦様は、ある日弟子等を集めて長寿王と長生王子のものがたりをお話になりました
『憎悪(にくしみ)はにくしみによって鎮まらない。
憎しみを忘れてはじめて憎悪は鎮まる。
他人の悪事を詮議せず、自らの行為を反省せよ。
勝てば恨まれる。敗れたものが苦しむからである。
故に勝敗を捨て、静かに安らかに生活すべきである。
恨みの中にあって恨み無く安らかに生きよ。
むさぼりの中にあってむさぼりなく、安らかに生きよ』と(現代語仏教聖典釈尊篇、法句抄13)
  (NA)退場
第一場 ーーー(巡礼の鉦を鳴らし続ける)長寿王夫妻、長生王子、大臣チャンドラ夫妻、上手より登場。巡礼の姿。疲れ切った様子。王子、少し足を引きずっている
長寿王 おお、やっとベナレスの街の灯が見えたぞ。妃よ、足は大丈夫か
はい、私よりも幼い長生が心配でございます。これ、長生、足が痛うはないか?
長生 はい、お母様、痛うはありません
大臣チャンドラ 長寿王様、お妃様、よくぞここまで追っ手の眼を逃れて辿り着けました。ここは敵の城下、かえって見つかりにくうございましょう。巡礼の群れに混じって、ひそかに城内に入り、どこかに隠れ住むことにいたしましょう
長寿王 チャンドラよ、よくぞ供をしてくれた。しかしこれから先、いっしょにいてはかえって人目につきやすい。別れた方が良いと思う。そこでじゃ、お前に頼みがある、聴いてくれるか
大臣 はい、なんなりとお申し付けくださいませ
長寿王 王子長生のことじゃ。この子はコーサラ王家にとって、かけがえのない世継ぎじゃ。たとえ我らが捕らえられたとしても、長生だけは助けてやりたい。そこでわしはこの子をお前たち夫婦に託そうと思う、チャンドラよ、引き受けてくれるか
チャンドラ、私からもお願いします。手放すことは身を裂かれるようにつらいけれど、この子の命を守るためならば、耐えもいたしましょう
チャンドラ ははあ、我が命にかえても長生さまをお守りし、我ら夫婦の手でお育ていたすでありましょう
チャンドラの妻 お妃様、ご安心くださいませ
ああ、長生、もう一度、顔をよく見せておくれ
長生王子 私はいやです。父上、母上といっしょにいたい
長生、よく聞き分けるのですよ。あなたもお父様のように本当の勇気を持っているはず、強く生きるために、いましばらくは別れるのです。またすぐに逢えます
長生王子 いつ逢えるのですか
長寿王 そうだ、一年後の今日の夜、黄金の寺の前で会うこととしよう。それまで、互いの無事を祈ろう
チャンドラ 黄金の寺でございますね。わかりました。それではぐずぐずしてはおられません。いつ不審に思われて密告されないともかぎりません
さあ、長生さま
長寿王 さらばじゃ
たのみましたよ
チャンドラ どうぞご無事で
お気をつけて
長生 父上、母上!
ーーー長寿王と妃、下手へ行き、見送ったチャンドラたちも上手へ」消える

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