劇団パンタカ第4回公演:昭和60年4月9日:神戸文化大ホール
【釈尊降誕祝典劇】
『王舎城物語』ーー本当のしあわせを求めてーー、一幕十場
配役:釈尊・・・林 市郎、ビンビサーラ・・・浅野正運、イダイケ・・・中島由子、アジャセ・・・立花正則、王妃・・・坂本弘子
デーヴァダッタ・・・中野天道、ジーヴァカ・・・藤本慈晃、月光大臣・・・佐々木晟夫、大臣A・・・湯浅大雄、牢番・・・岸 秀介
占者・・・明石和成、刺客・・・浅野孝次、仙人(声)、衛兵たち、インド舞踊・・・西村英子、大谷能子、合唱・・・浜田諭稔、
ナレーター・・・矢坂誠徳ディレクター・・・甲斐宗寿、衣装・・・西村英子、脚本・演出・・・冨士玄峰、舞台美術・・・川下秀一
第一場

(NA)今から二千五百年の昔、インドには
マガダとコーサラという二つの大国が栄えて
おりました。マガダの国王はビンビサーラと申し上げ、
王妃はイダイケと申しました。二人はたいそう仲むつまじく
また、お釈迦様に帰依して深く信仰しておられました。
二人の間には、一粒種の十七歳になるアジャセという王子
がおりました。その頃、お釈迦様のいとこのデーヴァダッタは
弟子でありながら、お釈迦様に取って代わり、教団を統率しよう
という野望に燃えて言葉たくみにアジャセ太子に近づき、取り入った
のです。
ーーー幕が開くと王宮の一室。アジャセ太子が剣を
振り回しているところへデーヴァダッタが憤然と入ってくる。
アジャセ 「あっ、デーヴァダッタ先生、いったいどうしたのです。たいそう
ご立腹のご様子ですが」
デーヴァダッタ 「どうしたもこうしたも、私が導こうとしてせっかく竹林精舎から
連れ出した五百人の弟子たちを、ゴータマの弟子の舎利弗と
目蓮がまるで狐と狸のように彼らをたぶらかして、ガヤー山から
連れ去ってしまったのです」
アジャセ 「先生、それはまたどうしたことですか」
デーヴァダッタ 「ええい、ことごとに私の前に立って邪魔をする奴らめ。彼らには
私の純粋さ厳しさが分からぬのだ。アジャセ太子よ、あなたは
私の希望の星だ。あなたなら私の理想を分かってくれるに違いない。
そうだ、あなたと私とでこのマガダの国を理想の国にするのです。・・・」
ーーーアジャセ、当惑して少し恥じらう
デーヴァダッタ 「あなたが新しい王、私が新しい仏、二人、相並んでマガダ国を
治めるのです。なんと愉快ではありませんか」
アジャセ 「わたしはようやく十七歳になったばかり、王になったとしても、
うまくやっていけるかどうか、とても自信はない」
デーヴァダッタ 「なにを心弱いことを、あなたには大王となる素質も器量も備わって
いるのです。ただこのままではあなたはおそらくいくつになっても王位
に付くことはできますまい」
アジャセ 「なんと言われる。それはいったいなぜです」
デーヴァダッタ 「あなたの父上、ビンビサーラ王はあなたを恐れておいでなのだ。
いや、憎んでおられるといった方がいい」
ーーーアジャセ、大きく驚く
アジャセ 「思ってもみぬことを・・・・」
デーヴァダッタ 「驚かれましたね。無理もない。痛ましいことです。生まれながらに、いや、
母の胎内に宿ったときから、実の父母に恐れられ、憎まれている赤ん坊
などという酷い運命がどこにあるでしょうか。けれども、それがあなたの
運命なのです」
アジャセ 「初めて聞くことです。信じられない。両親が私を恐れ憎んでいるなどと。
・・・・先生のお言葉とも思えません」
デーヴァダッタ 「あなたはなにもご存じない。皆が隠していることです。だが、あなたは
お気づきになりませんか。父王、ビンビサーラ様があなたをごらんになる
ときの眼の中にあるものを・・・・」
アジャセ 「先生、あなたはなにをおっしゃりたいのです。私を不安にさせるのは
何故です」
デーヴァダッタ 「わたしはおかわいそうなあなたの過去の恐ろしい秘密を、いえ、真実を
お教えしたいのです」
アジャセ 「わからない、なぜ父上が私を恐れなければならないのだ」
デーヴァダッタ 「宿命です。呪いです。あなたは一人の仙人の呪いによって、父王を
殺すことになるのです。逃れようのない宿命です」
アジャセ 「宿命・・・・父上を殺す・・・・・恐ろしいことを・・・」
ーーーデーヴァダッタはアジャセの肩を抱くようにして
花道の方へ行き、スポットライトの下に立って
舞台中央を見ていることになる。舞台半分溶暗。半分、
明るくなる。ビンビサーラ王は玉座に。
イダイケ夫人は寄り添って立っている。
第二

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